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「今年中に会社を売らないと増税」は本当か——ミニマムタックス改正を冷静に読み解く

2026年3月、「ミニマムタックス」の確定申告が初めて行われました。しかしこの制度、申告元年を迎えたこのタイミングで、令和9年分(2028年3月申告)からは控除額の縮小・税率引き上げという改正がすでに決まっています。富裕層・資産家の方にとって、今まさに正確な制度理解が求められる局面です。

「急いで資産を動かすべきか」と迷う前に、まず制度の中身と改正の影響を正確に把握しておきましょう。

「1億円の壁」を是正するミニマムタックスとは

ミニマムタックス(正式名称:特定の基準所得金額の課税の特例)は、2023年度税制改正で創設された制度で、令和7年分(2025年1〜12月の所得)から適用が始まり、2026年3月の確定申告が申告元年となりました。

この制度が生まれた背景には、「1億円の壁」と呼ばれる問題があります。

日本の所得税は原則として累進課税ですが、株式の譲渡益や配当所得などは分離課税(約15%)が適用されます。そのため、金融所得の比率が高い富裕層ほど全体の実効税率が低くなるという逆転現象が生じており、100億円規模の所得でも15%程度の実効税負担率に留まるケースがあります。

これを是正する仕組みとして導入されたのがミニマムタックスです。

現行制度(令和7・8年分)の内容

ミニマムタックスの計算は、大きく2つのステップで考えるとわかりやすいです。

ステップ1:「本来あるべき税額」を算出する

申告不要にしている株式・配当の所得も含めた全所得を合計し、そこから3.3億円を引いた金額に22.5%をかけます。

ステップ2:「すでに払っている税額」を差し引く

確定申告で納める所得税と、証券会社に源泉徴収された所得税(約15%部分)を合算した金額を、ステップ1の金額から差し引きます。この差し引きがあるため、二重払いにはなりません。

この2つのステップの差額が正となる場合、その金額が追加課税されます。

正式な計算式は次のとおりです。

【計算式】

追加課税額 =(基準所得金額(注1) − 3.3億円)× 22.5% − 基準所得税額(注2)

(注1)基準所得金額: 総所得金額および分離課税の所得金額を合計した金額(申告不要制度を適用できる所得を含む)→申告不要にしている株式・配当の所得も含めた全所得の合計額です。
(注2)基準所得税額: 申告不要制度を適用する所得を除いて計算した場合の申告書上の所得税額と、申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額の合計額→確定申告で納める所得税と、源泉徴収された所得税を合算した「すでに払っている税額の合計」です。

株式譲渡・配当・不動産譲渡などの15%分離課税の所得のみで構成されている場合、所得が10億円程度から追加課税が生じます。たとえば所得10億円の場合は次のとおりです。

  • ステップ1(本来あるべき税額):(10億円 − 3.3億円)× 22.5% = 1.5075億円
  • ステップ2(すでに払っている税額): 10億円 × 15% = 1.5億円
  • 追加課税額: 1.5075億円 − 1.5億円 = 0.0075億円

所得規模別の試算は以下のとおりです。

所得 3.3億控除後 15%分離税 22.5%追加税
5億円 1.7億円 0.75億円 0億円
10億円 6.7億円 1.5億円 0.0075億円
20億円 16.7億円 3.0億円 0.7575億円
30億円 26.7億円 4.5億円 1.5075億円
50億円 46.7億円 7.5億円 3.0075億円

申告元年の対象者は約200人と予想されており、現時点では超富裕層に限定された制度といえます。

令和9年分(2028年3月申告)からの改正で何が変わるか

令和8年度税制改正により、令和9年分(2027年1〜12月の所得/2028年3月申告)からミニマムタックスの計算方法が大幅に変更されます。

項目 令和7・8年分 令和9年分以降
特別控除額 3.3億円 1.65億円(約半減)
税率 22.5% 30%

新しい計算式は次のとおりです。

追加課税額 =(基準所得金額 − 1.65億円)× 30% − 基準所得税額

改正後の試算(15%分離課税所得のみと仮定した場合の一例)は次のとおりです。

所得 1.65億控除後 15%分離税 30%追加税
5億円 3.35億円 0.75億円 0.255億円
10億円 8.35億円 1.5億円 1.005億円
20億円 18.35億円 3.0億円 2.505億円
30億円 28.35億円 4.5億円 4.005億円
50億円 48.35億円 7.5億円 7.005億円

追加税だけを比較すると、数倍〜数十倍に膨らむケースもあります。 改正後の対象者は約2,000人に増えると予想されており、これまで対象外だった層にも影響が及ぶ可能性があります。

「急いで動くべきか」と感じたら、まず確認を

この改正を受けて、「令和8年中に資産を動かすべきか」を検討されている方もいらっしゃるかもしれません。確かに令和9年分からは税負担が増加するケースがあります。

ただし、税負担の変化だけを理由に意思決定を急ぐのは禁物です。資産の売却や事業承継には、税以外にも事業の将来性・後継者との関係・市場環境など、多くの要素が絡み合います。

まずは自分の所得の規模・構成を把握した上で、ミニマムタックスの影響があるかどうかを冷静に確認することが先決です。

特に以下に該当する方は、早めのご確認をお勧めします。

  • 株式の売却(事業承継・M&A)を検討しているオーナー経営者
  • 不動産の大規模な売却を予定している方
  • 株式・不動産の譲渡所得が年間5億円以上になる可能性がある方

ミニマムタックスは、これまで申告不要制度を前提としてきた方が特に見落としやすい制度です。少しでも該当する可能性がある場合は、早めに専門家へご相談ください。


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