備蓄した非常食、いつ「経費」になる?国税庁が示す税務上の正解
2026年8月13日、線状降水帯が千葉県を中心に直撃し、成田国際空港では約7,000人が滞留する事態となりました。空港運営会社や県庁が非常食や避難場所を提供し、民間企業でも帰宅を諦めて会社に泊まった従業員が多数いたと報じられています。
こうした災害が現実のものとなるたびに、企業の防災備蓄の重要性が改めて浮き彫りになります。では、企業が備蓄した非常食は、税務上どのように処理すべきなのでしょうか。「いつ経費になるのか」という点は、意外と正しく理解されていない可能性があります。
条例が定める「3日分備蓄」の努力義務
東京都をはじめ多くの自治体が「帰宅困難者対策条例」を制定しており、企業に対して従業員1人あたり3日分の飲料水・食料などを備蓄する努力義務を課しています。
「努力義務だから罰則はない」と後回しにしている企業も少なくないようですが、いざ災害が発生したとき、従業員を帰宅させて事故が起きた場合には安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。防災備蓄は、経営上の重要課題として前向きに取り組みたいところです。
「貯蔵品」として資産計上しなければいけないの?
そこで気になるのが、コストとしての税務処理です。
非常食(長期保存可能なフリーズドライ食品や缶詰など)を購入した際、「賞味期限が数年・数十年先まであるのだから、実際に使うまでは貯蔵品として資産計上すべきでは?」と考える経理担当者の方もいるかもしれません。
しかし、結論から言うと、その必要はありません。
国税庁の質疑応答事例(「非常用食料品の取扱い」)では、次のように明確に示されています。
「備蓄時に事業供用があったものとして、その時の損金の額(消耗品費)に算入して差し支えありません」
つまり、「購入して社内に配備した時点」で経費(損金)として処理できるのです。
なぜ「購入時」に経費にできるのか?
国税庁が購入時の損金算入を認める理由は、主に以下の2点です。
① 食料品は、繰り返し使用するものではなく、消耗品としての特性を持つ
通常の消耗品は、期末に未使用分が残っている場合、一度「貯蔵品」などの資産として計上し直すことが原則です。しかし、食料品は本質的に消耗品であり、この原則の適用を要しないと整理されています。
② 「備蓄すること自体」が事業の用に供したことに当たる
災害用の非常食や保存水は、倉庫に置かれているその状態が「備えている」という目的を果たしています。実際に被災して消費した時点ではなく、社内に配備した時点で事業供用済みと認められるのです。
例外に注意!処理が変わる2つのケース
原則として購入時に全額経費計上できる非常食・防災用品ですが、次の2つのケースでは取り扱いが変わります。
① 高額な非常防災備品・設備を取得した場合
1個(1台)の取得価額が10万円を超えるような非常用設備——たとえば非常用発電機や大規模な防災倉庫など——を購入した場合は、税法の規定に従って資産計上のうえ、減価償却(数年にわたる費用化)が必要となります。
ただし、青色申告を提出している一定の中小企業であれば、1点あたり30万円未満(年間合計300万円まで)の固定資産については、少額減価償却資産の特例を活用して購入年度に一括損金算入することも可能です。詳細は顧問税理士にご確認ください。
② 特定の社員のみに配布した場合
定期的な入れ替えなどの際に、特定の社員だけに非常食を配布した場合は注意が必要です。
企業の防災対策としての備蓄ではなく、特定個人への経済的利益の供与とみなされ、その社員への「給与(賞与)」として扱われる可能性があります。
給与となれば源泉税の問題が発生します。さらに役員への配布であれば役員賞与となり、損金算入できないうえ、仕入税額控除の対象外となるリスクも出てきます。
全従業員に平等に配布することが、このリスクを回避するための基本的な対応です。
災害への備えは、従業員を守るためであると同時に、企業を守るための経営判断でもあります。備蓄の税務処理について少しでも疑問を感じたら、早めに会計事務所・税理士にご相談ください。
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