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遺言書があっても「遺留分」で相続がこじれる――侵害額請求が相続税・所得税に与える影響を整理する

「遺産はすべて長男に」という遺言書が残されていた。それでも、他の相続人から「遺留分を請求したい」という声が上がり、相続が長期化してしまった——。こうしたケースは珍しくありません。

遺言書があれば安心、と思われがちですが、「遺留分」という制度が存在する以上、遺言通りにすべてが決まるわけではないのです。さらに厄介なのは、遺留分をめぐる話し合いが決着した後に、相続税の修正申告や所得税の課税という税務上の問題が次々と発生する点です。

この記事では、遺留分の基本から、侵害額請求後に必要となる税務手続きまでを整理します。

遺留分とは――相続人に保障された「最低限の取り分」

民法は、財産が特定の人物に集中して遺贈・贈与されることがないよう、相続人に対して財産の一定割合を「遺留分」として取得する権利を与えています。これは相続人の生活保障と公平な財産分配を目的とした制度です。

各相続人の遺留分の割合は次のとおりです。

  • 相続人が被相続人の父母のみの場合: 遺留分算定の基礎となる財産価額の 3分の1 に、法定相続分を乗じた額
  • それ以外の場合(子・配偶者など): 遺留分算定の基礎となる財産価額の 2分の1 に、法定相続分または代襲相続人の相続分を乗じた額

なお、兄弟姉妹には遺留分を取得する権利がありません。この点は見落とされやすいため、注意が必要です。

遺留分を侵害する遺言でも、遺言自体は有効

重要なのは、遺留分を侵害する内容の遺言がされても、遺言の効力は失われないという点です。

受遺者(遺言によって財産を受け取る人)は、被相続人の遺言に従って財産を取得します。そして、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを受遺者に請求できます(民法第1046条)。

なお、公正証書遺言を作成する際には、公証人が遺言の内容によって遺留分侵害が生じるリスクを説明してくれます。遺言者がその場で立ち止まり、内容を再考できる機会が設けられているわけです。また、法的効力はありませんが、遺言書に「付言事項」として遺言者の思いを書き添えることも可能です。遺族への感謝や財産配分の理由を伝えることで、争いを未然に防ぐ効果が期待できます。

遺留分侵害額請求が決着した後の「税務の落とし穴」

遺留分侵害額の請求が決着し、金銭の交付が行われると、相続税の申告内容が変わります。すでに相続税の申告書を提出済みの場合、以下のとおり対応が必要です。

金銭を受け取った相続人(遺留分権利者)の場合

取得財産が増えるため、相続税の負担が増加します。

  • 新たに相続税の申告が必要になった場合 → 期限後申告書を提出
  • すでに申告していた相続税額が不足する場合 → 修正申告書を提出

金銭を支払った受遺者・受贈者の場合

取得財産が減るため、過大に相続税を納めたことになります。

  • 遺留分侵害額請求による支払額が確定したことを知った日から4か月以内に 更正の請求を行うことができます(相続税法第32条)

この「4か月以内」という期限は、通常の更正の請求(法定申告期限から5年)とは異なる特別ルールです。見逃すと納めすぎた税金が戻ってこなくなる恐れがあるため、確定後は速やかに対応することが重要です。

不動産や株式で「代わりに渡した」場合は所得税も発生

ここで特に注意が必要なのが、金銭ではなく不動産や株式などの財産で遺留分侵害額を支払った場合です。

遺留分侵害額の請求は、本来「金銭での支払い」を求めるものです。しかし、手元に現金がなければ不動産などの財産で代わりに支払うケースもあります(代物弁済)。

この代物弁済は、税務上「その財産を時価で譲渡した」とみなされます(所得税基本通達33-1の6)。つまり、財産を渡した側(受遺者・受贈者)には譲渡所得として所得税が課税されるのです。

国税庁の質疑応答事例でも、「遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて土地を移転した場合は、代物弁済に該当し、譲渡所得課税を行う」と明確にされています。

相続税に加えて所得税まで発生するというこの「二重の課税リスク」は、事前に知っておかなければ対処のしようがありません。

遺言書があっても、全員の合意があれば別の分割が可能

実は、遺言書とは別に、相続人全員が合意すれば、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行うことも可能です。

この場合、受贈者は遺贈を事実上放棄し、各相続人は遺産分割協議に従って財産を取得したものとして扱われます。それぞれの取得財産の額に応じて、通常どおり相続税の申告を行うことになります。

また、このように遺言と異なる分割協議を行った場合でも、遺留分を放棄したことによって贈与税が課税されることはありません(国税庁タックスアンサーNo.4176)。

ただし、この取り扱いが適用されるのはあくまで「相続人全員の合意がある場合」に限られます。一人でも分割協議に反対する相続人がいる場合は、遺留分侵害額請求の手続きが必要になります。

相続は「遺言書の作成」がゴールではない

遺言書は確かに重要です。しかし、遺留分の問題・申告後の修正申告・代物弁済による所得税課税など、相続に関わる税務は遺言書を作った後にも複雑に絡み合います。

特に、不動産や自社株など換金しにくい財産が多い方ほど、遺留分侵害額請求が発生した際のリスクが高くなります。遺言の内容を考える段階から、税務の専門家を交えて対策を練ることが、円滑な財産承継への近道です。

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