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パワハラ防止対策 中小企業にも義務付け

近年高まるパワーハラスメントへの問題意識

厚生労働省が公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、民事上の個別労働紛争の主な相談内容は、2012年度から2020年度まで9年連続して「いじめ・嫌がらせ」が最多の件数です。

民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)

民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)

厚生労働省「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より

近年では、解雇などに代わりハラスメントが労働紛争の火種になりやすくなっていることが分かります。

こういったパワーハラスメント(パワハラ)に対する問題意識の向上を受け、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が2022年4月に中小企業にも施行されました。

防止法は、事業主に対しパワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じる義務を課した点に特徴があります。

パワハラの定義

パワハラという言葉はすでに一般的に知られていますが、厚労省はパワハラの定義を、2020年に発表した「パワーハラスメント防止のための指針※(以下指針)」で、職場において行われる以下の1~3すべての要素を満たすものとしました。

※正式には「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

パワハラを構成する要素

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

では、上記1~3に該当することとは具体的に何なのでしょうか。

パワハラの代表的な言動の類型

指針では、パワハラに該当する例として以下の6類型を挙げています。

パワハラに該当する6類型

  1. 身体的な攻撃…暴行、傷害
  2. 精神的な攻撃…脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言
  3. 人間関係からの切り離し…隔離、仲間外し、無視
  4. 過大な要求…業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
  5. 過小な要求…業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  6. 個の侵害…私的なことに過度に立ち入ること

客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適切な業務指示や指導については、パワハラに該当しないとしています。

パワハラと適切な指導の境界線が難しく感じるところですが、指針ではさらに7つの要素をあげています。

業務上必要かつ相当な範囲かを判断する要素

  1. 当該言動の目的
  2. 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
  3. 業種・業態
  4. 業務の内容・性質
  5. 当該言動の態様・頻度・継続性
  6. 労働者の属性や心身の状況
  7. 行為者との関係性

上記の要素を総合的に検討した上で業務上必要か、相当な範囲かを判断することになります。

部下を指導する際に「パワハラ」と捉えられることを恐れるあまり、業務上必要な注意指導すらをも怠るようになっては、通常の業務が滞ってしまう可能性もあります。

業務上必要・相当の範囲で注意指導を行うには、上記の7つの要素を考慮するようにしましょう。

また、発言内容・態度によっては部下から上司に対するパワハラが起こることもあります。

パワハラ防止措置とは

ここまでに見てきたようなパワハラを起こさないために、中小企業も講じなければいけなくなったパワハラ防止措置ですが、その内容について指針では以下のように示しています。

パワハラ防止措置

①事業主の方針などの明確化およびその周知・啓発
②相談(苦情も含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③事後の迅速かつ適切な対応

さらに1~3と併せて以下も講ずるよう規定しています。

  • 相談時、事後対応では相談者・行為者などのプライバシーを保護し、その旨を労働者に周知
  • 相談したことなどを理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発

上記に挙げたパワハラ防止措置を、以下のような方法で具体的な行動に落とし込んでいきます。

パワハラ防止措置の具体的な行動指針

  1. ①の事業主の方針の明確化とは、職場におけるパワハラの内容、パワハラを行ってはいけない旨を明確にして周知・啓発し、行為者には厳正に対処する方針を示し就業規則・その他の職場における服務規律などを定めた文書に規定することです。
  2. ②の相談に応じるとは、相談窓口を設けて周知し相談窓口担当者が適切に対応できるように努めることです。相談窓口担当が適正な聞き取りができるよう、相談マニュアルで定めておく、研修を受けさせておくなどすると対応がスムーズです。
  3. ③の事後の迅速かつ適切な対応とは、事実関係を迅速・正確に把握し、速やかに被害者に対する配慮行為者にも適切な対応を行い再発防止に向けた措置を講じることです。

まとめ

労働問題を放置すると、労働者のメンタルヘルス悪化、勤労意欲の低下、職場環境の悪化、離職率の上昇など負の影響が大きくなります。また必要な措置を怠れば、労働紛争にまで発展する可能性もあります。

今回のパワハラ防止法には罰則規定はありませんが、パワハラ対策に取り組むことで魅力的な職場環境を作り上げていけば、社員の定着率が上がり採用活動を行う上でもその効果が発揮できることでしょう。


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