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インボイス制度開始で免税事業者は簡易課税を選ぶべき?

事務負担を「簡易課税制度」で軽減

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始に際して、取引環境の問題からインボイス(適格請求書)発行事業者を選ばざるを得ない免税事業者も少なくないでしょう。

消費税の免税事業者からインボイス発行事業者になると、

  • インボイスの発行
  • 課税区分(課税・非課税・免税)と消費税額の記録
  • 消費税の申告書作成・提出(法人の場合は事業年度終了の日の翌日から2カ月以内、個人事業主の場合は翌年の3月31日まで)
  • 消費税の納税

と、事務負担・税負担が一気に増えることになります。

そこで、今回インボイスの導入により免税事業者から課税事業者になる方へお勧めなのが、本来の納税手続きよりも事務負担が軽減される簡易課税制度です。

簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担への配慮から設けられています。仕入消費税額を売上消費税額から計算することで、仕入消費税額をこと細かに記録する必要がなくなる制度です。

簡易課税制度

「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者は、その基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上に係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入に係る消費税額として、売上に係る消費税額から控除する制度。

簡易課税制度を適用するときの事業区分およびみなし仕入率は、次の通りです。

事業区分 みなし仕入率
第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) 80%
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) 70%
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) 60%
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) 50%
第6種事業(不動産業) 40%

例1:売上税額が70万円の卸売業者
・70万円-(70万円×90%)=7万円 
・納付税額:7万円

例2:売上税額が70万円のサービス業者
・70万円-(70万円×50%)=35万円 
・納付税額:35万円

簡易課税制度を利用すると、インボイスを発行し売上の消費税額さえ記録しておけば、仕入の消費税額は考慮に入れる必要がなく、事務負担の軽減に繋がります。

ただし、みなし仕入率によって算出された仕入税額よりも、実際の仕入によって生じた仕入税額の方が多い場合、納税額が増えてしまいます。

例3:売上税額が70万円、仕入税額が40万円のサービス業者
・簡易課税:70万円-(70万円×50%)=35万円
・一般課税:70万円-40万円=30万円 
・納付税額:簡易課税だと35万円、一般課税なら30万円

一方、多少金銭的に損しても事務負担を軽減した方が、余計な時間を記帳や計算に割かなくて良い分、自分にとっては有利である、という考え方もできます。

従って、簡易課税を利用した方が良いのかどうかは、制度選択前によく検討しておく必要があります。

本来の簡易課税制度選択届の提出期限

簡易課税制度を選択するには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署長に届け出なければなりません。

消費税簡易課税制度選択届出書

(国税庁ホームページ:「[手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続」より)

提出期限は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までとされています。

届出書の提出期限を過ぎると、その期間は一般課税で消費税を申告しなければならないため、非常に重要な手続きです。

しかし、インボイス導入により10月1日以降に課税事業者になる場合は、特別なルールが適用されます。

インボイス制度導入に伴う経過措置あり

免税事業者がインボイス発行事業者になる場合、期の途中であっても簡易課税事業者になることができます。

例えば、2023年10月1日から簡易課税事業者になろうと考えた場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出期限は、個人事業主の場合2023年12月31日まで、法人の場合その事業年度末までです。
※令和5年分から適用する旨を記載

個人事業主が簡易課税事業者になる場合


期日までに納税地を所轄する税務署長に届出書を提出した場合には、その課税期間初日の前日に消費税簡易課税制度選択届出書を提出したものとみなされます

なおこの経過措置は、2027年9月30日までの日の属する課税期間に適用されます。

簡易課税制度の有利・不利の検討を課税期間開始後にゆっくりできるわけです。

ただし、この経過措置が使えるのは、免税事業者がインボイス発行事業者になる場合のみです。課税事業者が簡易課税制度を利用しようと思った場合は、従来通り課税期間初日の前日までに届出書を出さなければなりません。

さらにインボイス制度導入に伴う経過措置「2割特例」も考慮に入れる

免税事業者がインボイス発行事業者になる場合、簡易課税制度を選択していなくても、簡易課税のように仕入や経費の消費税額の実額計算やインボイスの保存が不要で、売上税額の80%を仕入税額とすることができる、「2割特例」という経過措置が設けられています。みなし仕入率が80%を下回る業種ならば、2割特例を活用した方が税負担が軽減されます。

2割特例の適用期間は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間です。

2割特例は一般課税・簡易課税どちらを選択していても適用されます。

ですので、2割特例終了後に確実に簡易課税を選択する予定ならば、課税事業者になった年から簡易課税を選択していても問題はありませんし、2割特例終了後の2027年12月31日までに簡易課税を選択しても構いません。

また、インボイス登録事業者登録と「課税事業者選択届出書」をすでに提出してしまっており、2023年10月1日より前に免税事業者から課税事業者となっていた場合、2割特例が適用できないのか気になるところです。

この場合、2割特例は適用されません。しかし、課税期間中に「課税事業者選択不適用届出書」を提出することで、その課税期間から課税事業者選択届出書の効力は失効できることとされていますので、2割特例を適用することができるようになります(参考:財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」より)。


インボイス制度導入により複雑さを増す消費税実務ですが、当法人では、経験豊富な職員が消費税の申告・納税に関しても全力でサポートいたします。気になる点がございましたら、まずはお気軽にご相談ください。

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